基本的な芳香族炭化水素の一種であるo-キシレンAおよびp-キシレンBに対して、似た骨格を持つCやDはそれぞれo-キノジメタンおよびp-キノジメタンという名前が付けられています(図a)。これらは高い反応性を持ち、その骨格を持つ誘導体は可視光の吸収による着色や、電子の出し入れ、すなわち酸化還元特性を持ちます。そのためキノジメタン骨格を持つ化合物は有機機能性材料として重要な研究対象となっています。芳香族炭化水素とキノジメタンの炭素骨格は類似しているため、芳香族炭化水素からキノジメタンの変換反応があれば、有用な合成手法になります。しかし、安定な芳香族炭化水素から高反応性のキノジメタンへの変換となるため、そのような変換反応は様々な工夫をする必要があります。
今回、化合物1(二価ケイ素化学種、シリレン)が可視光照射により脱芳香族型環化付加反応をすることに着目し(図b)、この光反応をボウル型芳香族炭化水素であるコランニュレンEに適用することで、キノジメタン分子Fに一段階で変換できることを明らかにしました。(図c、赤色で示した部分がo-キノジメタン構造)。コランニュレンEが無色で可視領域に吸収を持たないのに対し、Fは濃青色であり、ほぼ可視領域全体 (~700 nm)に吸収を持ちます。そしてEの骨格が湾曲しているのに対して、Fの骨格はほぼ平面で、キノジメタン構造を持ち、結晶中で2分子が向き合った特徴的な構造を持っていました(図d)。電子状態の評価からは、共鳴構造に由来するビラジカル状態の寄与が示されました。また、Fは電子受容性に優れ、1電子還元反応により、対応するアニオンラジカルを与えました。今回の成果はキノジメタンのような機能性分子の合成について、新たな方法論の一つとなると期待されます。この内容は下記のオープンアクセス誌に掲載され、表紙に選定されました。

(論文情報)
(掲載日:2025年11月21日)
