Research


Research Results

反応有機化学研究室

キラルブレンステッド酸触媒が可能にするマクロリド天然物の効率的合成

 天然有機化合物(天然物)は多様な生物活性を有する物質の宝庫であり、人類は有史以来、様々な天然物を薬や毒として利用してきました。また、近年では天然物の構造をベースとした医薬品の開発も盛んに行われており、天然物を超える活性を持つ化合物が多数生み出されています。私たちの研究室ではキラルブレンステッド酸触媒の設計開発とそれを用いた分子変換反応の立体化学制御を中心に、様々な有機合成反応を開発しています。今回私たちは、キラルブレンステッド酸触媒を用いた不斉アリル化反応を駆使することでBastimolide Aの効率的全合成を達成しました。
 Bastimolide A (1)はIC50=80~270 nMと顕著な抗マラリア活性を有する40員環マクロリドであり、構造的特徴としてZ体のα,β-不飽和マクロラクトン構造と、末端のt-Bu基、1,3,5-トリオール構造などが挙げられます(図1)。この興味深い構造と魅力的な生物活性から様々なグループにより合成研究が行われており、これまでにSmithら(ペンシルベニア大学)により全合成が一例報告されています。一方、Smithらの合成法は短工程ではあるものの総収率は0.65%であり、その収率・効率性に改善の余地を残していました。私たちはこれまでに培ってきた触媒的不斉反応の知見を活かし、この複雑な構造を持つ天然物の効率的合成に取り組みました(図1)。1の合成を行うにあたり、最も難しい箇所は嵩高いt-Bu基に隣接する不斉点の構築です。実際、この構造を持つ中間体アルコール4の高度な立体化学制御は困難を極め、これまで不斉アリル化の最適触媒とされていたキラルリン酸触媒(R)-CPAを用いても、ピバルアルデヒド(2)とアリルボロン試薬3との不斉アリル化のエナンチオ選択性は僅か40% eeでした。転機となったのは、酸性官能基をリン酸からリン酸アミドに変えた(S)-CPAMを用いたことでした。このキラルリン酸アミド触媒を用いることで定量的かつ97% eeと非常に高いエナンチオ選択性で4が得られました。
 その後、4を多段階の変換によりアルデヒド5へと誘導しました。驚くべきことに、高度に官能基化された基質5を用いても(R)-CPAを用いた不斉アリル化は円滑に進行し、非常に高い選択性で目的物6が得られました。この官能基許容性はキラルリン酸触媒を用いた不斉アリル化の特に優れている点です。続いて、6をケトン7へと変換したのち、このものを別途調製したアルデヒド8とジアステレオ選択的アルドール反応により連結して9とし、4段階の官能基変換により重要中間体10を合成しました。10の分子内鈴木宮浦反応によりマクロラクトン環を構築し、最後に全ての保護基を脱保護することでbastimolide A(1)の全合成を達成しました。この合成法では、既存の手法に比べて総収率を20倍以上改善することに成功しています。

キラルブレンステッド酸触媒が可能にするマクロリド天然物の効率的合成

(論文情報)

  1. S. Umemiya, N. Shinagawa, A. Fujimoto, M. Terada, JACS Au, 2025, 5, 3052–3057.
    https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacsau.5c00630
  2. S. Umemiya, S. Osaka, N. Naoya, T. Hirata, M. Terada, Chem. Sci. 2025, 16, 3865–3871.
    https://doi.org/10.1039/d4sc08443h

(掲載日:2025年10月20日)

影
  • 東北大学
  • 東北大学大学院理学研究科・理学部
  • 東北大学巨大分子解析研究センター
| ENGLISH |