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理論化学研究室

理論化学を用いたシアネートエステル樹脂の加水分解の解明:量子化学と分子動力学の統合的研究

 ポリマーの加水分解、すなわち水がポリマー鎖の結合を切断する現象は、直接的な観察が実験的に困難です。この課題を克服するため、私たちの研究では量子化学(QC)計算と分子動力学(MD)シミュレーションを組み合わせ、シアネートエステル樹脂の劣化を、初期の吸水から最終的な結合切断まで追跡し、その微細構造および物理化学的変化を分析しました。
 単純なトリアジンモデルを用いたQC計算により、2つの加水分解経路が明らかになりました。1つは水分子1個による一段階のプロセス、もう1つは水分子2個が関与する二段階のプロセスです。後者の二段階プロセスは、水素結合の補助によってエネルギー的にはるかに有利であることが判明しました。
 私たちはこのエネルギー的に有利な水2分子メカニズムを、Pythonベースの反応モデルを介して完全に硬化した樹脂ネットワークのMDシミュレーションに組み込みました。この反応モデルは、QC計算から導かれた幾何学的およびエネルギー的基準が満たされると自動的に結合を切断します。
 高湿条件下でのシミュレーションは、ガラス転移温度(Tg)の変化に関する実験結果の傾向と正確に一致しました。このTg の変化は、クラスターサイズとポリマー鎖の動きを分析することで解析しました。本研究で確立したフレームワークは、水による劣化を分子レベルで精密に捉えることができ、次世代の高湿度耐性ポリマー材料を設計するための実践的な知見を提供します。

理論化学を用いたシアネートエステル樹脂の加水分解の解明:量子化学と分子動力学の統合的研究

参考文献 Y. Bai, G. Kikugawa, and N. Kishimoto, 論文準備中.

(掲載日:2025年6月26日)

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  • 東北大学
  • 東北大学大学院理学研究科・理学部
  • 東北大学巨大分子解析研究センター
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