3族元素のスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)、そしてランタン(La)以外は周期表の欄外にあるランタノイド元素(La–Lu)は、希土類(Rare earth: RE)と呼ばれています。これらの希土類イオンは、電子を3つ失った+3価の価数状態が非常に安定であるため、−2価のイオンである酸素と結合した希土類酸化物は、RE2O3という化学組成をもちます。このRE2O3のRE3+イオンは閉殻構造のため、RE2O3は絶縁体でかつ概ね非磁性の性質をもちます。しかし、非常に高い真空度の合成容器の中で、希土類金属を強力な紫外レーザーで瞬時に気化し、極微量の酸素で酸化すると、希土類金属の酸化が完全に進まず、+2価の希土類イオンをもつ希土類単酸化物REOを数十ナノメートルの厚さの単結晶薄膜として得られることができます。このREOは複雑な結晶構造をもつRE2O3のRE3+と対照的に、単純な岩塩構造をもちます(図1)。このREOのRE2+イオンは閉殻構造でなく自由電子をもつため、高い電気伝導性を示すことがわかってきました。
これまで本グループで合成したREO(RE = La–Sm)は、高い圧力のもとで多結晶の合成が40年以上前に報告されていました。一方、より重いランタノイド元素のREO (RE = Gd, Ho, Lu)は本グループで初めて合成したものの、これらの安定相であるRE2O3が少なからず混じってしまっていました。これは、REOの格子定数と薄膜成長に用いる単結晶基板との格子定数の差が大きく(図2左)、安定なRE2O3が形成されてしまうからです。その格子定数の差を軽減するために、それらの中間の格子定数をもつように岩塩構造(Ca,Sr)OのCa/Sr比を適宜調整した数ナノメートルの厚さのバッファー層を開発しました。すると、RE2O3が生じないピュアなREO薄膜を合成できるばかりでなく、これまで合成されていなかったREO (RE = Tb, Dy, Er)も合成できるようになりました(図2右)。こうして得られたREO (RE = Gd – Er)は、これまで知られている希土類の単純化合物の中では、きわめて高い電気伝導性と強磁性転移温度を持つことが分かりました(図3)。単純な化学組成と結晶構造をもつREOがほかにどのような面白い性質を示すか明らかにすべく、さらなる研究に励んでいます。
図1. RE2O3(左)とREO(右)の結晶構造。
図2. 基板に直接、REO薄膜を合成する従来の合成手法(左)と、本研究で用いた格子定数がより近いバッファー層の上にREO薄膜を合成する今回の手法(右)。
図3. 2価の希土類イオンを持つREO(赤)と、3価の希土類イオンを持つREN(青)の強磁性転移温度。
(論文情報)
(掲載日:2025年4月10日)