分子の形を自在にかえられる(編集できる)ようにすることは分子科学の究極の目標の一つです。通常、分子の形を変えるには化学結合を切断したり繋いだりする化学反応を複数回繰り返す必要があります。その間に変えたくない所の形が変わるなど、望みでない化学反応が起きることが良くあります。そのため、望み通りに分子の形を編集することは難しいのです。
最近私たちは反応性の高い有機分子の環骨格にケイ素のユニットを挿入する反応を見つけました(式1)。この反応では化合物1(二配位の炭素を持つ化合物でカルベンと呼ばれます)に有機ケイ素化合物2を反応させることで骨格にケイ素ユニットが導入されたカルベン3が得られます。カルベンは二配位炭素部分の反応性が高く、この部分を維持して骨格を編集することは難しいのですが、この反応では形式的に二配位炭素部分を残し、環骨格にケイ素ユニットが導入されています。この反応を詳しく調べた結果、反応に用いた有機ケイ素化合物の高いLewis酸性がこの反応を進める上で重要な役割を果たしていることがわかりました。また、合成されたカルベン3は四員環構造と炭素-炭素二重結合と二配位炭素を持ち、これまで全く合成例のない骨格を持つカルベンでした。性質を詳しく調べた結果、図1に示すような様々な構造式の性質を持つカルベンであり、一酸化炭素や二酸化炭素など、反応性の低い分子と反応することがわかりました。
(論文情報)
(掲載日:2024年7月30日)