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反応有機化学研究室

酸化的環拡大反応を用いた多様な環サイズを有する多環芳香族炭化水素の合成

 ベンゼン環のみから縮環した多環芳香族炭化水素(PAH)はグラフェンの部分構造としてそのπ共役長や縮環形式により多様な半導体特性を示し、有機エレクトロニクス分野に幅広く応用されています。一方、そのPAHの6員環ベンゼン環を部分的に5員環、7員環、8員環などに入れ替えたPAHは、球状のフラーレン、湾曲ナノグラフェンやトロイダル・カーボンナノチューブの部分構造として、お碗型、湾曲型、サドル型などのπ曲面構造を有します。その特異な曲面構造や分子のひずみ、凸面と凹面に由来する電子的性質や化学反応性の違いから、合成化学、構造有機化学、超分子化学の分野において重要性が益々高まっています。新たなPAH構造の構築および高機能性光電子材料の創出のため、高効率かつ革新的な合成戦略の開発は合成化学および材料科学において重要な研究課題となっています。これまで特定の環サイズを有するPAHを合成するために遷移金属触媒を用いた環化反応や酸化的芳香族カップリング反応などの様々な合成法が用いられています。我々は、異なる環サイズを有する様々なPAHの合成を可能とする柔軟で簡便な合成戦略を立てることで、合成化学や材料科学研究分野の更なる発展に貢献できると考えました(Ref. 1)。
 このような背景のもと、我々は独自に設計した出発分子BPMFの炭素-炭素二重結合がDDQなどの適切な酸化剤により選択的に酸化され、ラジカルカチオン種を形成し、それに続くFriedel-Craftsスピロ環化反応と1,2-アリール転移により5員環から6員環に環拡大したPAH化合物ジベンゾ[g,p]クリセン(DBC)が効率的に合成できることを見出しました(図1)。本合成戦略をさらに5員環から6員環への分子間環拡大反応や7員環から8員環への環拡大反応に展開し、フェナントレンやサドル型構造を有するPAHの効率的な合成に成功しました(図2と4)。また、酸素や硫黄原子を含む6員環出発分子に塩化鉄とオルトクロラニルの二つの酸化剤を用いると、7員環を含む湾曲型π平面構造を有するヘテロPAHが得られることを見出しました(図3、Ref. 2)。本反応は、出発分子の炭素-炭素二重結合とオルトクロラニル酸化剤との環化反応で形成した[4+2]環化付加体を塩化鉄酸化剤が活性化することで、開環および環拡大反応が連続的に進行していることを明らかにしました。本合成戦略の開発により、従来は合成困難であった様々な有機光電子材料に有用な高度π拡張したPAHおよびヘテロPAHの効率的な合成を実現しました。本合成戦略のさらなる展開により、窒素やホウ素などのヘテロ原子をPAHの望む位置に組み込んだ新たなヘテロPAHの創出と革新的な光電子機能の発見を目指しています。

酸化的環拡大反応を用いた多様な環サイズを有する多環芳香族炭化水素の合成

(論文情報)

  1. 金 鉄男, 寺田 眞浩, 有機合成化学協会誌、2023, 81(11), 1062-1072 (総合論文).
    https://doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.81.1062
  2. S. Zhang, H. Matsuyama, I. Nakamura, M. Terada, T. Jin, Org. Lett. 2023, 25, 5027-5032.
    https://doi.org/10.1021/acs.orglett.3c01730

(掲載日:2024年6月25日)

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  • 東北大学巨大分子解析研究センター
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