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有機分析化学研究室

有機触媒を用いたラタノプロストの6ポット合成

ラタノプロスト(1)は、ファルマシア社により開発されたプロスタグランジンFの誘導体である緑内障治療薬のブロックバスター(画期的な薬効を持ち、莫大な売り上げを出す新薬)です。全世界で使用されている重要な医薬品であることから、その効率的な合成法の開発は重要な課題の一つです。その構造的な特徴として、4つの連続する不斉点を有する五員環骨格が挙げられます。その為、この五員環を効率的に構築できるかが、ラタノプロストの合成において重要な点となります。
光学活性化合物の合成には様々な方法が存在しますが、有用な手法の一つに不斉触媒反応があります。不斉触媒反応にはこれまで数多くの触媒が用いられてきましたが、その多くは金属を含むものでした。しかし近年では、金属を含まず、炭素・水素・酸素・窒素などの原子から構成された低分子化合物が触媒として作用することが見出され、有機触媒として注目されています。有機触媒は、水や空気に安定である為取り扱いが容易で、毒性も比較的低く環境負荷も小さいことから、近年有機触媒を用いた反応開発は世界中で行われています。私たちは、有機触媒の領域で世界を先導しており、中でもアミノ酸から簡単に合成可能なジフェニルプロリノールシリルエーテル5が様々な不斉反応における有用な触媒となることを見出しています。
一方、通常の有機反応では、複数の反応を行う際には各段階ごとに反応を停止し、精製を行うことで目的物を合成しています。これに対し、私たちは複数の反応を一つの反応容器の中で、連続的に反応を行うワンポット反応を開発しています。この手法は、途中の精製過程を省略することができ、廃棄物の削減と短時間での合成が可能であるため、より環境負荷が小さく、非常に効率的な方法です。その為、私たちはこれまでにこの手法を活用した様々な天然物や医薬品のポットエコノミカルな合成を行ってきました。今回は、有機触媒とワンポット反応を活用し、ラタノプロスト(1)の効率的な合成を行いました。
アルコール2より2ポットで変換されるアルデヒド3と、ニトロアルケン4に対し、有機触媒ジフェニルプロリノールシリルエーテル5を作用させると、不斉マイケル反応が進行し、化合物6が高いジアステレオ選択性で得られました。続いて、化合物6に対してルイス酸である塩化ジメチルアルミニウムを作用させると、五員環7が形成されました。更に、化合物7を単離することなくワンポットで塩基を加えると、亜硝酸の脱離が進行し、化合物8が生成しました。得られた8に対し、2ポットの変換反応を行うことで、ラタノプロスト(1)を合成しました。この手法は、6ポット、総収率24%と高収率かつこれまでで最もポット数の少ない合成ルートとなっています。本手法を応用することで、プロスタグランジン類を含む、五員環を有する有用な化合物の効率的な合成が期待できます。

有機触媒を用いたラタノプロストの6ポット合成

(論文情報)

  1. Genki Kawauchi, Yurina Suga, Shunsuke Toda, Yujiro Hayashi, Chemical Science, 2023, 14, 10081-10086.
    DOI: 10.1039/d3sc02978f
    https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/sc/d3sc02978f

(掲載日:2024年3月29日)

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  • 東北大学
  • 東北大学大学院理学研究科・理学部
  • 東北大学巨大分子解析研究センター
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