ポストゲノム時代において、細胞内のタンパク質間相互作用(protein-protein interaction, PPI)に関する研究は、生命活動の理解と制御に欠かせなくなりました。特に、有機化合物(小分子)によるPPI制御は、次世代型創薬の柱と期待されています。植物では、生体機能のほとんどが、小分子である植物ホルモンによって制御されています。植物ホルモンは、生体内で2つのタンパク質を結合させる分子糊(モレキュラー・グルー)として働き、PPIを誘導するユニークな分子です。
植物ホルモンの一種であるジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)は、COI1とJAZという2種のタンパク質間のPPIを引き起こす分子糊です。微生物が生産する小分子コロナチンは、JA-Ileの構造ミミック分子として知られており、JA-Ileと同じく分子糊として働きます。今回の研究では、JA-Ileとコロナチンの分子糊としての作用機構を、等温滴定カロリメトリーおよび示差走査型カロリメトリーという2つの方法で比較しました。その結果、これら2つの小分子は、それぞれ異なる方法で、COI1とJAZのPPIを誘導していることが分かりました。JA-IleはCOI1とJAZの両者を1段階で引き寄せてPPIを誘導する一方で、コロナチンは先にCOI1に結合した後にJAZを引き寄せ、2段階でPPIを誘導します。この違いは、JA-Ileとコロナチンの環状部分の構造的な違いに起因することも明らかにしました。このように、同じタンパク質間のPPIが、異なる機構で誘導される例は過去にありません。分子糊としての活性は、2段階機構でPPIを誘導するコロナチンの方がJA-Ileよりも強いことから、この結果は、今後の分子糊(モレキュラー・グルー)の開発に役立つ指針になると期待されます。
(論文情報)
(掲載日:2024年1月18日)