金属錯体は、その配位子を精密に設計することで、有用物質を合成する反応の高活性な触媒として働きます。近年、電気陰性度が比較的小さく陽性な13・14族元素(ホウ素、アルミニウム、ケイ素など)を組み込んだ配位子を、金属触媒に活用することが注目されています(下図)[1]。このような配位子は金属へと強く電子を押し出すため、その結果電子豊富となった金属上で、通常切れにくい化学結合を組み替える反応が促進されます。
私たちは、資源豊富な14族元素であるケイ素を組み込んだ新しい配位子を設計して、高活性な金属触媒を開発する研究を行っています。最近、ケイ素と2つの窒素で金属に結合する新しい三座配位子をもつイリジウム錯体が、芳香族化合物の強固な炭素-水素結合を切断して炭素-ホウ素結合へと組み替える反応を、穏やかな反応条件(40 ℃)で進行させる触媒として働くことを示しました(下図)[2]。この反応で生成する炭素-ホウ素結合をもつ化合物は、2010年のノーベル化学賞に関係する鈴木-宮浦クロスカップリングのような有機合成反応の原料となる有用な物質です。
現在、ケイ素および他の13・14族元素をもつ配位子を開発するだけでなく、安価で入手容易な鉄や銅などの錯体を合成することで、持続可能な発展に貢献する触媒の開発を目指した研究を進めています。
図 電気陽性13・14族元素を導入した配位子をもつ金属錯体触媒
(論文情報)
(掲載日:2023年4月24日)