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有機分析化学研究室

有機触媒を用いた(−)-キニーネの5ポット合成

 キニーネは、キナの木から得られる化合物であり、マラリアの特効薬として400年近く前から用いられています。キニーネの構造を元にクロロキンやメフロキンなどの副作用が比較的少ない人工的な抗マラリア薬が開発され、現在ではアルテミシニンが第一選択薬として用いられています。キニーネは薬剤耐性がある熱帯熱マラリアや重症マラリアに対して用いられることがありますが、薬剤耐性が出にくく、副作用が少ない治療薬の開発が望まれています。近年、キニーネやその誘導体は金属触媒の配位子や有機触媒としても用いられており注目を集めています。有機触媒は酸素や水に安定なため、取り扱いが容易で毒性も比較的低く環境負荷も小さいことが特徴です。この様な背景から、効率的かつ類縁体の合成が可能なキニーネの合成法の開発が不可欠となっています。私たちのグループはアミノ酸から容易に合成可能な有機触媒を開発しています。また、通常の有機反応は、複数の反応を行うことにより、目的物を合成しています。これに対し、私たちは複数の反応を一つの反応容器の中で、連続的に反応を行うワンポット反応を開発しています。この手法は、途中の精製過程を省略することができ、廃棄物の削減と短時間での合成が可能であるため、より環境負荷が小さく、非常に効率的な方法です。
 私たちの研究室が独自に開発した有機触媒を用いたワンポット反応によってアルデヒド2、ニトロアルケン3、イミン前駆体5から含窒素六員環6を良好な収率、高い選択性で得ました。この反応は10g以上のスケールで行うことが可能です。得られた6から2つのワンポット反応によって7を合成しました。8を用いて含窒素芳香環の導入を行い、9から最後のワンポット反応によってキニーネ(1)を合成しました。この合成は5ポット、総収率14%と高収率かつこれまでで最も少ないポット数となっています。従来の天然のキニーネから誘導する方法では困難であった類縁体を合成することが容易となり、新規医薬品やより高い活性や選択性を有する有機触媒の開発への応用が期待できます。

有機触媒を用いた(−)-キニーネの5ポット合成

(論文情報)

  1. Takahiro Terunuma, Hayashi Yujiro, Nature Communications, 2022, 13, 7503.
    DOI: 10.1038/s41467-022-34916-z

(掲載日:2022年12月26日)

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