植物の光合成は、光化学系Iと光化学系IIと呼ばれる二種類の大きな分子複合体が直列の太陽電池のように太陽光エネルギーを使って電子を流すことで駆動されています。二つの光化学系が直列に繋がれていることから、電子の流れを円滑にするためには両者の働きがバランスよく起こる必要があります。しかし、自然の中では、例えば他の植物の葉の影に入ると光の色が変わり、それにより光化学系IとIIの電子を流す速度のバランスが崩れることがあります。こんな場合にもうまく光合成を効率よく行うため、植物は二つの光化学系の電子を流す速度のバランスを常に保つステート遷移という機構を発達させてきました。光化学系IIには通常、太陽光のエネルギーをより多く集めるためのアンテナとして働くLHCIIというタンパク質が結合していて、その働きを補助しています。光化学系IIの電子伝達速度が速すぎる状況になった場合、LHCIIは光化学系Iへ移動してそこでの電子伝達を補助し、二つの光化学系で起こる電子伝達のバランスを保つのです。我々は、特殊な光学顕微鏡を開発することで、クラミドモナスという単細胞藻類の生きた細胞を使って、ステート遷移の前後でのLHCIIの移動を可視化することに初めて成功しました。その結果、炭酸固定を行うピレノイドと呼ばれる細胞内の部位の近くでは、ステート遷移があまり起こっていないことを突き止めました。ステート遷移という光合成の調節機構と、炭酸固定に関係する細胞内の部位とが互いに関係していることは驚きであり、今後の研究でその生物学的な意味を明らかにしたいと考えています。
(論文情報)
(掲載日:2022年9月16日)