グラフェンは炭素の六角形をしきつめた原子層という非常に薄い物質で、二次元物質とも呼ばれますが、それを積み重ねるときにわずかに捩って角度を変えると超伝導が生じることが最近わかりました。このような二次元物質は、様々な原子層が積み重なった層状物質にも潜んでいます。図1に示すR2O2Bi(R:希土類元素)は、ビスマスの正方形をしきつめた原子層とR2O2ブロック層が繰り返し積層された結晶構造をもち、このうちビスマス原子層が電気伝導性を示す二次元物質です。このR2O2Biに過剰の酸素を与えるとビスマス原子層とR2O2ブロック層の間の空隙に酸素原子が入り込み、その結果、結晶構造がc軸方向(図1の縦方向に相当します)に伸びます。つまり、ビスマス原子層どうしが引き離されることになります。c軸方向に伸びる前は電気をよく流す金属の性質を示していたのですが、c軸方向に伸びると2 K(マイナス271℃)付近でゼロ抵抗状態になり、超伝導を示すことがわかりました(図2)。グラフェンでは捩ると超伝導になりますが、R2O2Biはビスマス原子層を引き離すと超伝導になるわけです。ただし、R2O2Biがどうして超伝導を示すか理由はわかっていません。Rの種類により、超伝導が生じる温度(超伝導転移温度)は少し異なります(図2)。Rのイオン半径によりR2O2Biの格子定数が変わりますが、超伝導転移温度とR2O2Biのc軸の格子定数をa軸の格子定数で規格化した値(すなわち結晶構造の縦横比)との関係をプロットすると、超伝導転移温度はRの種類によらず、結晶構造の縦横比で決まることがわかります(図3)。一般に、超伝導体に磁性元素が入ると超伝導が壊れてしまうのですが、R2O2BiのRが磁性元素でも、この関係は保たれています。つまり、この物質は、構成元素によらず結晶構造の縦横比で超伝導の転移温度が決まるという、ユニークな超伝導を示します。最近、いろいろ類似の物質を調べた結果、La2O2Biは超伝導を示さないものの、c軸長を延ばすと電気伝導性が高くなることがわかりました。また、周期表でビスマスの一つ上に位置するアンチモン原子層をもつ、La2O2Sbエピタキシャル薄膜を世界で初めて作製したところ、これまで報告されてきた多結晶に比べて、10000倍高い電気伝導性をもつことがわかりました。このように、二次元物質や層状物質では未開拓の性質が眠っているため、我々のグループではそれらの発掘に日々努力しているところです。
図1 R2O2Biの結晶構造。過剰酸素が層間に入ると、c軸長が増大する。
図2 各R2O2Biの抵抗率の温度依存性。点線はc軸長の短い試料、実線は酸素過剰のc軸長の長い試料を表す。
図3 各R2O2Biの超伝導転移温度とc軸長/a軸長の関係。白丸は、過剰酸素を供給していないc軸長の短い試料
(論文情報)
(掲載日:2021年9月14日)