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合成・構造有機化学研究室

近赤外領域に吸収を持つ有機ケイ素化合物

 有機化合物には、構造に応じて様々な色を示すものがあります。これは有機化合物が光を吸収するためです。例えば、トマトに含まれている赤色色素であるリコピンは二重結合13個(炭素原子26個)の部分が520 nmを中心とした光を吸収します(図(a))。リコピンによって吸収されなかった光が目に入り、私たちはトマトの色を赤と認識します。今回私たちのグループは、可視領域よりはるか長波長側の近赤外線、IR-B領域と呼ばれる1400~3000 nmの波長の光を吸収する有機ケイ素化合物、スピロペンタシラジエンのラジカルカチオン(図(b))を作りだしました。
 この化合物は2つの二重結合が蝶ネクタイ型につながったスピロペンタシラジエンという中性ケイ素分子をまず合成し、そこから電子を一つ取り除くこと(一電子酸化)によって得ることができました。この時、一電子酸化しても分子の形が大きく変化しないこともわかりました。
 スピロペンタシラジエンのラジカルカチオンには対になっていない電子(不対電子)があり、その分布を調べると、不対電子が蝶ネクタイ型のケイ素骨格周辺に非局在化していることがわかりました。このことが原因で、この化合物は特徴的な近赤外領域の吸収を示します。この化合物の吸収スペクトルを測定すると、図(c)のように1972 nm を中心にIR-B領域(1400~3000 nm)に広がった吸収を示すことがわかりました。前述したリコピンが炭素原子26個で520 nmの吸収を持つことと比較すると、今回はたった5個のケイ素原子ではるか長波長側の1962 nmの吸収を実現していることがわかります。
 残念なことに今回の化合物は酸素や水と反応して分解してしまうため、実際の赤外線吸収材料としては使うことはできません。しかし、私たちの分子デザインと物性の実証は、今後の有機ケイ素化合物のさらなる物性開拓につながる結果です。地表に豊富に存在する元素であるケイ素から構成される化合物の可能性がさらに広がるものと期待されます。

近赤外領域に吸収を持つ有機ケイ素化合物

(論文情報)

  1. S. Honda, R. Sugawara, S. Ishida, T. Iwamoto, J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 2649-2653.
    DOI: 10.1021/jacs.0c12426
    https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c12426

(掲載日:2021年7月12日)

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