Research


Research Results

有機化学第二研究室

半導体高分子への電子ドープが可能な高HOMO閉殻分子の開発とn型熱電変換への応用

 有機半導体を用い廃熱を電気に変換する有機熱電変換技術は、エネルギー・環境問題解決の一助となることが期待されており、近年その材料開発研究が活発化しています。高効率な熱電変換には、ホールをキャリアをとするp型および電子をキャリアとするn型の両方の半導体材料が必要となり、さらにこれら両半導体中のキャリア密度を制御することが重要となります。n型有機半導体への電子ドープには一般に有機ラジカル前駆体が用いられていますが、材料の多様性が限られるため新たな材料開発と材料設計指針の開拓が求められています。本研究では、閉殻構造の有機分子を基盤に電子構造を調整することで、新たな電子ドープ材料の開発を目指しました。
 上記の目的を達成するため、最高被占分子軌道 (HOMO) のエネルギー準位が高い分子骨格を選び、これに電子供与性の置換基を複数導入することで、閉殻構造の有機分子でありながら、極めて高いHOMO準位をもつことが計算化学により予測されました(図上)。そこで、これらの分子を合成し、それらのHOMO準位を電気化学的手法および窒素雰囲気中でのケルビンプローブ法により評価することで、真空準位から4 eV以上のHOMOを持つことを実験的に確認しました。
 代表的なn型半導体高分子であるBBLやN-2200をホスト材料(図下)として、新たに開発した材料で電子ドープしたところ、汎用されている有機ラジカル前駆体の電子ドープ剤であるN-DMBIを用いるよりも、高い熱電特性を示すことを見出しました。これらの結果は、閉殻電子構造を有する分子でも効率的なn型ドーピングを実現できることを示しており、電子供与性を備えた多様な分子骨格を用いることで、有機熱電用途向けの優れたn型ドープ材料を開発できることを意味します。

(論文情報)

  1. Highly Electron-Donating Bipyranylidene Derivatives: Potential n-Type Dopants for Organic Thermoelectrics
    T. Matsuo, Dr. K. Kawabata, Professor K. Takimiya
    Adv. Energy Sustainability Res.
    DOI: 10.1002/aesr.202100084
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aesr.202100084

(掲載日:2021年4月30日)

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  • 東北大学巨大分子解析研究センター
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