界面は、異なる相の分子が出会う境界であることから、生化学・電気化学・触媒化学などの様々な分野における重要な反応が起こります。我々の研究室では、反応場としての界面に着目した研究を進めており、一例として生体膜のモデル界面で観測された最近の研究成果を紹介します。
多くの動物が行う肺呼吸では、肺に含まれる肺胞を収縮・拡張することで酸素を取り込むとともに二酸化炭素を排出しています。この肺胞の表面は、肺サーファクタントと呼ばれる主に脂質から成る単分子膜によって覆われています。脂質は、疎水性の炭化水素鎖と親水性のヘッドグループから構成されており、肺胞の表面張力を下げるなどの重要な役割を果たしています。肺サーファクタントに含まれる脂質のうちで炭化水素鎖に二重結合をもつ不飽和脂質が空気中に存在する程度の極低濃度オゾンによっても反応することを示唆する結果が最近報告されています。しかし、単分子層というごく微量の分子の反応を検出することの難しさから、反応生成物を含めて不飽和脂質と極低濃度オゾンとの反応機構の詳細はこれまで明らかになっていませんでした。
本研究では、ヘテロダイン検出和周波発生分光法と呼ばれる分光法を用いて不飽和脂質で形成した単分子膜に極低濃度オゾンを曝露したときに起こる変化を測定しました。この分光法は、非線形光学効果を利用した界面選択的な分光法で、分子の構造や配向を高感度で検出できるという特長を持っています。その結果、炭化水素鎖の不飽和結合が選択的にアルデヒドへと酸化される反応を実時間で観測することに成功しました。さらに、親水性のヘッドグループのオゾン酸化に及ぼす影響を検証した結果、オゾン酸化はヘッドグループによらずにほぼ同じ速度で進行することが明らかとなりました。以上のように、極低濃度オゾンであっても生体への影響は無視できないことを示しており、生体膜のオゾン酸化からの保護を検討していく上で重要な知見であると言えます。
(論文情報)
(掲載日:2021年4月7日)