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Research Results

錯体化学研究室

ナノサイズの細孔をもつ分子性導体を創る

 身近にあるプラスチックのような有機物はたいてい電気の流れない絶縁体ですが、現在ではスマートフォンやATMなど、多くの電子機器に電気を流す有機物が使われています。この電気を流す有機物の発見には日本人が大きな貢献をしていて、2000年のノーベル化学賞に輝いた、白川らによる「導電性高分子」が最も有名ですが、すでに1954年には、赤松・井口・松永が、臭素で部分的に酸化したペリレンの導電性を報告しています。これは低分子が分子間力で集まった結晶性の化合物で、「分子性導体」と呼ばれています。
 分子性導体中では、分子がうまく重なって、二重結合やベンゼン環上のπ(パイ)電子が隣の分子まで広がることで、電気の流れるパスができています。このパスが一次元や二次元に制限されているため、外からの弱い刺激で突然電気が流れなくなって絶縁体に転移するなど、普通の金属にはない面白い現象が見られます。外からの弱い刺激として、光・圧力・温度変化がよく知られていますが、もっと化学的なアプローチ、例えば分子の出し入れを使えば、構造変化・酸化還元(ドーピング)・化学反応など、色々な刺激を与えられそうです。しかし、これまでの分子性導体では分子が密に詰まっていて外から分子が入る余地がありません。
 そこで私達は、金属イオンと有機配位子がジャングルジムのような隙間だらけの骨格に組みあがった多孔性配位高分子 (MOF) に着目し、MOFと分子性導体を融合することを考えました。すなわち、MOFの有機配位子同士をうまく重ねて分子性導体部位を作るという戦略です。私達はこれを多孔性分子導体 (porous molecular conductor; PMC) と名付けました。MOF中でこのような分子の重なりを狙って作るのは容易ではありませんが、私達は電気化学的に配位子を還元しながら、同時に金属イオンへ結合させることで、一次元配位高分子が60ºずつ向きを変えながら積層した多孔性分子導体 PMC-1を得ることに成功しました。このPMC-1は、ナノ細孔中の溶媒分子を取り除くと構造が変化し、電気伝導度が1万倍も増大しました。その後も、ナノ細孔の大きさや骨格の次元性、電子状態などの制御を目指して、新しいPMCの合成に取り組んでいます。
 ごく最近、密に分子が詰まった結晶でも、柔らかい配位子を用いれば還元剤が結晶内部まで反応を起こして電気伝導性が発現することを見出しました。このような酸化還元剤を用いたPMC合成についても実験を進めています。

(論文情報)
L. Qu, H. Iguchi, S. Takaishi, F. Habib, C. F. Leong, D. M. D'Alessandro, T. Yoshida, H. Abe, E. Nishibori, M. Yamashita,
Porous Molecular Conductor: Electrochemical Fabrication of Through-Space Conduction Pathways among Linear Coordination Polymers
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 6802–6806.
DOI: 10.1021/jacs.9b01717
https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.9b01717
https://twitter.com/J_A_C_S/status/1120399398683467777

K. Fuku, M. Miyata, S. Takaishi, T. Yoshida, M. Yamashita, N. Hoshino, T. Akutagawa, H. Ohtsu, M. Kawano, H. Iguchi,
Emergence of electrical conductivity in a flexible coordination polymer by using chemical reduction
Chem. Commun. 2020, accepted.
DOI: 10.1039/D0CC03062G
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/CC/D0CC03062G

(掲載日:2020年7月8日)

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