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数理化学研究室

分子の向きをそろえて化学反応の「動画」作成に挑む

 図1に示したような,勝手な方向を向いた分子をそろえることを考えてみましょう。図の矢印で表した力をどちらの方向から,どのような大きさで何回加えればよいと思いますか?ただし,各分子は向きの違いによって異なる力を受けるとします。簡単には答えられないと思います。近年,分子の向きをきれいにそろえることで,向きがそろった状態で化学反応をスタートさせ変化の様子を時々刻々と追跡する「分子動画」の作成が注目されています(化学反応がバラバラな向きで進行すると分かりにくそうですね)。分子の向きをそろえることはそのための大事なステップということになります。

 実際には分子は非常に小さいですので量子力学に従います。そのような量子の世界に直接アクセスできる手段は限られており,レーザーパルスに代表される光を使った操作が有効です。勝手に動き回る分子に対して,様々な方向・タイミングでレーザーパルス列を照射する試みが報告されてきました。しかし,効果は限定的であり議論が続いています。本研究では,最適制御シミュレーションとよばれる本研究室で開発されてきた理論手法を使って答えを導きました。その結果,お互いに直交するレーザーパルスを交互に照射することに加え,最後に強力なパルスを照射することが鍵であることが分かりました。

 それでは,そろった分子をどのように「見る」ことができるでしょうか?ここでもX線という光が活躍します。例として本研究室でシミュレーションしたある瞬間のスナップショットを図2に示します。残念ながら回折像を通して「見る」ため,それをイメージング処理して動画を構成する必要があります。すなわち,①分子をそろえ反応をスタートさせ,②フェムト秒(1フェムト秒=10のマイナス15乗秒。)の速さで回折像のスナップショットを測定し,③イメージングするといったさまざまな技術の集積が必要です。現在,これらの課題解決に向けて研究が進められており,化学反応を「分子動画」として直接「見る」ことが実現されつつあります。皆さんの予想通りの,または予想もしなかった化学反応の様子が近い将来明らかになると思います。

図1 分子の向きをそろえる制御
図1 分子の向きをそろえる制御

図2 (a) 向きがそろっていない分子からの回折像。(b) 向きがそろった分子からの回折像。分子の向きの情報を反映したパターンが現れる。
図2 (a) 向きがそろっていない分子からの回折像。(b) 向きがそろった分子からの回折像。分子の向きの情報を反映したパターンが現れる。

(論文情報)
Locally optimized control pulses with nonlinear interactions, Y. Ohtsuki, T. Namba, J. Chem. Phys. 151, 164107 (2019).
https://doi.org/10.1063/1.5127563

Three-dimensional alignment of asymmetric-top molecules induced by polarization-shaped optimal laser pulses, M. Yoshida, N. Takemoto, Y. Ohtsuki, Phys. Rev. A 98, 053434 (2018);
https://doi.org/10.1103/PhysRevA.98.053434

(掲載日:2020年2月20日)

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  • 東北大学
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  • 東北大学巨大分子解析研究センター
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