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無機化学研究室

分子変換を起こす遷移金属―ケイ素三重結合錯体

 私たちは,周期表の中央に位置する遷移金属元素に注目し,それらと主要族元素(典型元素)との間に多重結合(二重結合,三重結合)を持つ金属化合物(錯体)について研究しています。これらの錯体は,様々な分子の変換反応の触媒になる高い可能性を持っています。実際,例えば,遷移金属と炭素との間に二重結合をもつ金属化合物(カルベン錯体)は,オレフィンの二重結合を一気に切断・再結合させて「二重結合の組み換え反応」(オレフィンのメタセシス反応)を引き起こします。オレフィンとオレフィンがあるだけでは何の反応も起こりませんが,カルベン錯体が触媒として関与しこの反応が可能になるのです。このような独特な結合組み換え反応が起こるのは,金属-炭素間の二重結合(σ結合とπ結合)の特異な性質に由来します。2005年のノーベル化学賞はこの反応の開発に対して与えられており,従来法では困難であった様々な有機化合物や天然物,薬の合成にも広く利用されています。

 地殻中で2番目に多い元素であるケイ素は,周期表で炭素の下に位置し,従って,炭素のように遷移金属と多重結合を形成できるはずですが,これまでそのような多重結合錯体の合成例は少なく,その性質はあまり研究されていませんでした。最近,私たちは,タングステンとケイ素との間に三重結合を有する錯体の合成に成功し,その反応性の研究により,この錯体がアルデヒドの炭素―酸素二重結合を切断し,ケイ素―酸素二重結合を形成させる「二重結合の組み換え反応」を起こすことを見出しました。ケイ素-酸素二重結合化合物は通常発生させることが極めて難しい化学種ですが,ケイ素三重結合錯体を用いることにより容易に発生させられることが分かりました。これはケイ素三重結合錯体の高い分子変換能力を示すものです。今後,「金属―典型元素多重結合」を軸として,さらに新しい分子変換能やおもしろい性質を示す機能性金属錯体の開発を行っていきます。

図:分子変換を起こす遷移金属―ケイ素三重結合錯体

(論文情報)
Reactions of a Silylyne Complex with Aldehydes: Formation of W-Si-O-C Four-Membered Metallacycles and Their Metathesis-Like Fragmentation T. Yoshimoto, H. Hashimoto, N. Takagi, S. Sakaki, N. Hayakawa, T. Matsuo, H. Tobita,
Chem. Eur. J. 2019, 25, 3795-3798.
DOI: 10.1002/chem.201900457; https://doi.org/10.1002/chem.201900457

Recent Advances in the Chemistry of Transition Metal–Silicon/Germanium Triple-Bonded Complexes
H. Hashimoto, H. Tobita, Coord. Chem. Rev. 2018, 355, 362-379
DOI: 10.1016/j.ccr.2017.09.023; https://doi.org/10.1016/j.ccr.2017.09.023

(掲載日:2019年11月25日)

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