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理論化学研究室

触媒反応の中心をナノレベルで解き明かす

 ランタノイド系列に属する元素であるセリウム(Ce)の酸化物は、さまざまな酸化還元反応の触媒の構成要素として利用されています。特に、自動車の排ガスにおいて有害な一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)、炭化水素を酸化還元反応によってCO2, N2, H2Oに変化させるための触媒成分として用いられています。このような触媒反応の機構を理解するうえで、酸化セリウムの小集団(クラスター)の構造を調べることが第一歩となると考えられます。

我々のグループでは、以前から気相イオンの質量とかさばり具合(衝突断面積)を同時に測定可能な、イオン移動度質量分析法を適用できる装置を開発して、さまざまなクラスターイオンに適用してきました。この測定から得られる衝突断面積を、量子化学計算で得られた構造に対する衝突断面積値と比較することによって、クラスターイオンの構造に関する情報を得ることができます。

今回の研究論文では、CenO2n+ (n = 2-6)のクラスターイオンを中心に、その構造を明らかにしました。その結果、これらのクラスターの構造ではCeとOが架橋した結合が多くを占めますが、過酸化物イオンO22-を含むと思われる構造が今回新たに見つかりました。今後、酸化セリウムと貴金属との複合系(例; AumCenOp+)などの、より現実の触媒に近い系の構造や、それらの系とNOやCOとの反応中間体の系の構造を明らかにしていく予定です。

図:触媒反応の中心をナノレベルで解き明かす

(a) 今回使用したイオン移動度質量分析実験装置の模式図。真空中で、生成した酸化セリウムクラスターイオンをイオン移動度分析用のドリフトセルに導入し、その後出てきたイオンを加速して飛行時間質量分析計で検出する。
(b) 酸化セリウムのクラスターイオンCe3O4-6+における、イオン移動度分析の衝突断面積にほぼ比例したスペクトル(到達時間スペクトル)。量子化学計算の結果との比較から、Ce3O6+では過酸化物イオンO22-を含んでいることがわかった。

(論文情報)
T. Nagata, J. W. J. Wu, M. Nakano, K. Ohshimo, and F. Misaizu,
"Geometrical Structures of Gas Phase Cerium Oxide Cluster Cations Studied by Ion Mobility Mass Spectrometry,"
J. Phys. Chem. C 123, 16641-16650 (2019).
DOI: 10.1021/acs.jpcc.9b01378
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpcc.9b01378

(掲載日:2019年9月11日)

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