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合成・構造有機化学研究室

ケトンのケイ素版化合物を安定な化合物として創り出す

 周期表を眺めると、ケイ素(Si)は炭素(C)の一つ下に位置し、同じ14族元素であることに気付くと思います。これらは同族元素であるため、価電子数が同じです。従って有機化合物を構成する炭素原子をケイ素原子に置き換えた化合物を紙の上では描くことができ、科学者は、炭素化合物(有機化合物)のケイ素版化合物がどのような性質を持つのかについて興味を持ってきました。
 図(a)に示したように、炭素-酸素(C–O)結合に対応するケイ素-酸素(Si–O)結合は石やガラス、最近ではシリコーンを構成する結合として身近な所に大量に存在し、我々はそれらの物質を利用して生活しています。ところが、基本的な有機官能基の一つであるケトンR2C=Oのケイ素版化合物(R2Si=O)はこれまで安定化合物として存在しませんでした。これは、ケイ素-酸素二重結合の一つ(π結合)がケイ素-酸素単結合に比べてとても弱いため、Si=O二重結合を作るより、二つのSi–O単結合を形成する傾向がとても強いためです。この性質は、二酸化炭素(CO2)は気体で存在するのに対して、二酸化ケイ素(SiO2)は共有結合結晶(石英・水晶)として存在することにも関係しています。
 ケイ素版ケトン(R2Si=O)がどのような物質なのか知るためには、合成して手に取れる形で得ることが必要です。そのため、その合成は100年以上追究されてきましたが、これまで達成されていませんでした。その理由は、ケイ素-酸素二重結合の性質を維持したまま、自分同士の反応によるSi–O単結合形成のみを抑制するという分子設計に難しさがあるためです。我々は、図(c)に示したような立体的に大きな芳香族基を適切に配置した緻密な分子設計を施すことで、ケイ素版ケトンを安定な結晶として取り出し、その分子構造と、いくつかの反応性を明らかにすることに成功しました。
 本研究により、100年以上追究されてきた、ケイ素版ケトンのケイ素-酸素二重結合がもつ固有の性質を実験的に追究することが可能になりました。地表に豊富に存在する元素であるケイ素から構成される化合物の可能性がさらに広がるものと期待されます。本論文はドイツの化学専門誌Angewandte Chemie International Editionの重要論文(Very Important Paper)および同誌の表紙に選定されました。

図:ケトンのケイ素版化合物を安定な化合物として創り出す

(論文情報)著者・雑誌名・掲載ページ・DOI・論文URL
R. Kobayashi, S. Ishida, T. Iwamoto
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 9425–9428.
DOI: 10.1002/anie.201905198
論文URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/anie.201905198
表紙URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201906778

図

(掲載日:2019年7月8日)

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  • 東北大学
  • 東北大学大学院理学研究科・理学部
  • 東北大学巨大分子解析研究センター
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