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生物化学研究室

細胞が機械的力を感知する分子機構の発見

 私たちの体は重力の作用や運動といった様々な機械的な力を受けています。体を構成する細胞は、これら機械的な刺激に対して適切に応答をすることで恒常性の維持、代謝調節、形態変化といった様々な生理的反応を行っています。例えば、運動によって筋肉や骨は発達します。また、血管に流れる血流の速度によって血圧が調整されます。そこには個々の細胞が、外環境からの機械的な力を感知して応答する分子(蛋白質)の仕組みが存在していることは明らかです。しかし、力という実態のない刺激を細胞内の化学的な情報に変換して細胞を変化させる仕組みはまだ未解明な部分が多く残されています。
 私たちは、アクチン細胞骨格という細胞の運動と形態変化に必須の細胞内構造(細胞骨格)の動的な制御について研究を行ってきました。その中で、血管内皮細胞に対して、心臓の拍動を模して1秒間に1回、細胞を引き伸ばす繰り返し伸展刺激を行うと細胞が伸展方向と垂直に配向する応答に注目しました。RNA干渉という標的とする遺伝子の発現を止めてしまう方法を使って、アクチン骨格を制御するRho-GEFと呼ばれる一群の蛋白質の働きを一種類ずつ止めて、この繰り返し伸展刺激よる細胞の配向に影響する分子を探しました。その結果、Soloという分子が関与することを見つけました(図1)。さらに研究を進め、細胞を引っ張ったときに細胞がその力に抵抗して引っ張り返すような反応にSoloが必要であることが分かりました。また、Soloがケラチン8/18という細胞の強度を維持する別の細胞骨格と結合して働き、また、ケラチン8/18繊維のネットワーク構造の維持に必要であることを明らかにしました(図2)。この研究によって、細胞が周囲の力学的な環境に適応するために、作用する張力を感知して引っ張り返す応答に寄与するSoloという分子を発見することができました。この発見をきっかけに、細胞が力を感じる分子機構の解明をさらに進めていきたいと考えています。

図:細胞が機械的力を感知する分子機構の発見

(論文情報)著者・雑誌名・掲載ページ・DOI・論文URL
Fujiwara S., Ohashi K., Mashiko T., Kondo H., and Mizuno K.
Interplay between Solo and keratin filaments is crucial for mechanical force-induced stress fiber reinforcement.
Mol. Biol. Cell, 27: 954-966 (2016)
doi: 10.1091/mbc.E15-06-0417
URL: https://www.molbiolcell.org/doi/10.1091/mbc.e15-06-0417

(掲載日:2018年5月21日)

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