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Research Results

有機化学第二研究室

新しい分子による有機薄膜太陽電池の高効率化

 有機分子の性質は、分子がもつ構造により決まります。例えば、染料や顔料と呼ばれる有機色素は、その色素分子が吸収する色(光)の補色関係にある色を示します。合成化学により自在に分子構造を操り、望みの波長の光を吸収する有機分子を合成することが可能であり、この手法は、他の光・電子機能をもつ有機材料の研究でも用いられています。
 有機材料分野で、現在、注目されているものの一つが、光電変換、すなわち太陽電池への応用です。無限に降り注ぐ太陽光の半分程度が可視光線(光の波長が約400 ナノメートルから700ナノメートル)であり、また、最も強度が高い部分も可視光領域にあることから、有機色素分子がもつ光吸収能力を有効に活用すれば、優れた太陽電池を創ることが可能です。
 有機化合物の中でもナフタレンジイミドと呼ばれる色素分子は有機太陽電池用の材料とししばしば用いられてきましたが、この分子を用いて可視光全体の幅広い波長領域の光を吸収する材料を作ることは困難でした。私たちの研究室では、ナフタレンジイミドに含硫黄複素芳香環であるチオフェンを縮合した分子骨格を開発し、光吸収帯の広域化を実現するだけでなく、これをもとに電子を運ぶ性質を持つ材料(n型半導体材料)を数多く合成してきました。その中で、最近新たに開発した化合物が有機太陽電池用の材料として特に優れた特性を示すことを見出しました。この材料と正孔を運ぶ性質をもつ高分子材料(p型半導体材料)とを組み合わせ太陽電池を作製したところ、紫外領域から近赤外領域までの光を幅広く電気に変えることが出来るだけでなく、光電変換効率(照射した光エネルギーを電気に変える効率)も9%を超え、従来のナフタレンジイミドを用いた材料の2倍程度の高い効率を実現することに成功しました。さらにこの太陽電池は経時劣化も少ないことが分かりつつあり、新たな有機太陽電池の有望な材料として期待されています。

図:開発した新しい有機色素、有機太陽電池の光電変換特性

(論文情報)著者・雑誌名・掲載ページ・DOI・論文URL
Bis(naphthothiophene diimide)indacenodithiophenes as Acceptors for Organic Photovoltaics.
J. Hamonnet, M. Nakano, K. Nakano, H. Sugino, K. Takimiya, K. Tajima, Chem. Mater. 2017, 29, 9618–9622.
DOI: 10.1021/acs.chemmater.7b03733 URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.7b03733

(掲載日:2018年4月2日)

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