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Research Results

錯体化学研究室

安定な高伝導性Pd(III)-Brナノワイヤー錯体

 パラジウム (Pd) は様々な酸化数をとる金属であり、この酸化数の変化は種々の有機合成触媒に利用されてきました。2010年のノーベル化学賞はまさにこのようなPdの触媒反応の開発に対して与えられています。Pdの酸化数としては0, +2, +4が有名で、+3というのは非常に稀な酸化状態です。そのため、Pd(III)錯体は新しい触媒開発の観点から注目されてきました。さらに近年、当研究室がPd(III)-Brナノワイヤー錯体を初めて報告したことを皮切りに、Pd(III)種を含む複数の導電性ナノワイヤー金属錯体の報告がなされ、物性科学の観点からも注目されています。

 Pd-Brナノワイヤー錯体は、擬一次元ハロゲン架橋金属錯体 (MX錯体) と呼ばれる化合物群の一種で、通常は···Pd2+···Br−Pd4+−Br···Pd2+···Br−Pd4+− Br···という価数配列、すなわちPd(II)とPd(IV)が交互に並んだ混合原子価状態が安定です。しかし、このナノワイヤーを縮めてPd−Br−Pd間距離を短くしていくと、−Pd3+−Br−Pd3+−Br−という価数配列、すなわちPd(III)のみからなる平均原子価状態へと転移することを2008年に当研究室が世界で初めて明らかにしました。平均原子価状態では、巨大な三次の非線形光学効果 (入射光の周波数を3倍にして放出する効果) や高い電気伝導性などの多彩な物性が期待されますが、これまでのPd(III)-Brナノワイヤー錯体は、結晶がもろく、研究を進める上で問題となっていました。最近、本研究室はナノワイヤー錯体の配位子にヒドロキシ基 (OH基) を導入し、多重水素結合によってPd−Br−Pd間距離を縮めることで丈夫なブロック状結晶を合成することに成功しました。この錯体は3−38 S·cm−1 という高い室温電気伝導率を示し(伝導率S·cm−1 は抵抗率 Ω·cmの逆数。)、MX錯体としての最高記録を更新しました。これは、既存のPd(III)-Brナノワイヤー錯体と比べて約100万倍も高い値です。また、分解温度 (443 K) まで平均原子価状態を維持することができ、熱安定性も大きく向上させることに成功しました。 この新しいアプローチにより、今後のPd(III)-Brナノワイヤー錯体を用いた機能性材料の開発が大いに期待されます。

図:安定な高伝導性Pd(III)-Brナノワイヤー錯体

(論文情報)著者・雑誌名・掲載ページ・DOI・論文URL
Multiple-Hydrogen-Bond Approach to Uncommon Pd(III) Oxidation State: A Pd−Br Chain with High Conductivity and Thermal Stability.
M. R. Mian, H. Iguchi, S. Takaishi, H. Murasugi, T. Miyamoto, H. Okamoto, H. Tanaka, S. Kuroda, B. K. Breedlove, M. Yamashita, J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 6562–6565.
DOI: 10.1021/jacs.7b02558
URL: http://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.7b02558

(掲載日:2018年1月8日)

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