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有機分析化学

自由自在に有機分子を作る ~ インフルエンザ治療薬タミフルのone flow合成

 右手と左手は重ならないように、分子には右手と左手の関係にある光学異性体が存在します。それらは通常では同じ割合で生成しますが、生物活性、物性が異なるため、一方の光学異性体のみを選択的に作る事が非常に重要です。その際、触媒が大切な役割をします。これまで中心に金属を含む触媒が広く用いられてきましたが、金属が最終生成物に残留すること、ある種の金属は高価であること等の問題がありました。私たちは、有機化合物が触媒として作用する事に着目し、安価なプロリンから容易に合成する事ができるdiphenylprolinol silyl etherという有機分子触媒を開発して、この触媒がいろいろな反応に適用可能である事を明らかにしています。

 さらにこの触媒を用いて、重要な有機分子の実用的な合成法の開発を行っています。インフルエンザ治療薬として臨床で用いられているタミフルは、Roche社によりシキミ酸から10段階の反応で合成されています。最近、先程述べたdiphenylprolinol silyl etherという触媒を用いた反応を鍵反応として用い、反応を種々検討した結果、1つの反応容器を用いるだけで全ての合成反応を行うというone pot合成を見出しました。反応に多くの時間、労力を必要とするのは精製です。精製過程を大幅に減らす事により、簡便な合成法を開発することができました。また反応時間に関しても最適化を行ったところ、全ての反応を60分間で完了させる事に成功しました。

 反応容器にフラスコを用いるのではなく、反応試剤をチューブ中に流すことによりチューブ中で流れながら反応が進行するというフロー化学が注目を集めています。大きな反応釜が必要なく、どこでも合成ができ、再現性の良い結果が得られるというメリットがあります。フロー化学をタミフルの合成に適用したところ、チューブに順次反応試剤を流していくだけで、タミフルが合成できるという画期的な方法を、ごく最近、開発しました。

 これらの方法を開発する過程で、私たちはpot economy, time economyという概念を提唱しています。これらの方法は、有機化合物のものつくりに新しい流れを作り出すものと期待されています。

自由自在に有機分子を作る ~ インフルエンザ治療薬タミフルのone flow合成

(論文情報)著者・雑誌名・掲載ページ・DOI・論文URL
S. Ogasawara, Y. Hayashi, Synthesis 2017, 49, 424-428.
DOI: 10.1055/s-2016-0036-1588899.
Enders教授の70歳を祝福する特集号への招待論文

(掲載日:2017年8月18日)

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  • 東北大学
  • 東北大学大学院理学研究科・理学部
  • 東北大学巨大分子解析研究センター
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