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理論化学研究室

原子分子が弱く結合した化学種(クラスター)の光分解反応機構を探る
― 生じる各断片種のエネルギーと放出方向の画像が得られる新たな装置の開発

 大気中で水蒸気から雲ができ始めたり、溶液の中で結晶が析出し始めたりするときには、最初に原子や分子の小さな集団(クラスター)ができます。これらが成長してナノ粒子や微粒子、さらに目に見える液体や固体となっていきます。クラスターは日常のさまざまな場面で発生していますが、その性質は集まった粒子の数(クラスターサイズ)によって大きく変化するので、まだまだ新たな発見が期待できる興味深い研究対象です。

 特に、クラスターの光分解(光解離)反応の機構をサイズごとに調べることによって、大気中での太陽光による化学反応や、光を利用した微粒子の触媒反応への応用が期待できます。このような目的のために、我々は最近、特定のサイズのクラスターイオンを選択してレーザー光で解離させて、その断片のイオンを再び質量分析計で分析して画像として観測する装置を世界で初めて開発しました。この装置は真空中でクラスターイオンを2回反射させ、その間にレーザー光を当てて分解して生じた断片イオンの放出される方向と速度を画像として観測することができるものです。今回は、カルシウムイオンとアルゴン原子からなるイオンCa+Arに紫外光を当てて生じたCa+イオンの画像を観測して、この装置の有効性を検証しました。今後は大気中で存在すると考えられる分子クラスターイオンや、海水塩の飛沫が大気中に放出されて得られる金属原子と分子からなるイオンなどへの適用を目指しています。この装置によって、大気汚染や光触媒反応などのクラスターや微粒子が関与すると予想されるさまざまな現象の解明と問題解決に向けて研究を進めていきます。

原子分子が弱く結合した化学種(クラスター)の光分解反応機構を探る― 生じる各断片種のエネルギーと放出方向の画像が得られる新たな装置の開発

(a) 今回開発した実験装置の模式図。真空中で、Ca金属棒にレーザー光を当ててCa蒸気プラズマを発生させ、そこにArガスを作用させてCa+Arクラスターイオンを生成する。このCa+Arに紫外レーザー光を当てて生じた断片イオンCa+の速さと方向を画像として観測する。
(b) Ca+Arに紫外線を照射して生じた断片イオンCa+の画像。明るいほどイオンの強度が大きい。E はレーザー光の振動する電場ベクトルの向き(偏光方向)を表し、その方向からの角度分布を元に、光解離反応の機構が議論される。

(論文情報)著者・雑誌名・掲載ページ・DOI・論文URL
K. Okutsu, Y. Nakashima, K. Yamazaki, K. Fujimoto, M. Nakano, K. Ohshimo, and F. Misaizu,
"Development of a linear-type double reflectron for focused imaging of photofragment ions from mass-selected complex ions,"
Rev. Sci. Instrum. 88, 053105 (2017). (8 pages).
DOI: 10.1063/1.4982706
http://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.4982706

(掲載日:2017年6月19日)

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