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合成・構造有機化学研究室

反応途中の分子を操る ~ 高い安定性と反応性を合わせ持つ二価ケイ素化合物の合成

 化学反応では、結合の切断や新しい結合の形成が起こります。そのため、化学反応の途中では、通常の化合物より結合の手の数が少ない(あるいは多い)分子が発生します。そのような分子(反応性中間体)は、化学反応を理解し、新しい反応を発見・開発する上で大切な情報を与えてくれます。私たちはケイ素化合物の重要な反応性中間体である二価ケイ素化合物(シリレン)の新たな誘導体を合成し、シリレンの新しい反応性を明らかにしました。
シリレンとはケイ素上に2つの結合とLewis塩基性注1を示す非結合電子対とLewis酸性注1を示す空の3p軌道を持つ化合物です(図1a)。一般的なケイ素化合物が4つの結合をもつのに対し、シリレンは二つの結合しかもっていないため、通常すぐに様々な分子と反応してしまい、取り出すことができません。しかし、図1bの環状ジアミノシリレンAのように分子内アミノ基の電子供与で反応性を下げたり、環状ジアルキルシリレンBのように自己多量化しないように立体保護基を導入することで、シリレンは取り出すことのできる化合物になります。シリレンAは熱安定性は高いですが反応性が低く、一方シリレンBは反応性は高いですが熱安定性が低くなり、安定性と反応性はトレードオフの関係にあります。今回、私たちはABの両方の特徴を持つシリレン1を合成することに成功しました(図1c)。この1は、150℃に加熱しても分解しませんが、環化反応やSi-H挿入反応等の反応性を示し、1が環状ジアミノシリレンAの高い安定性と環状ジアルキルシリレンBの高い反応性の両方の優れた性質を合わせ持つことを見出しました。また、1が、基底状態でジヒドロ芳香族化合物の脱水素芳香族化を、励起状態では芳香族化合物の脱芳香族化を進行させることを見出し(図1d)、高安定性と高反応性を持つ1を用いることでシリレンの新たな反応性を明らかにしました。
この1は、最近、特異な電子状態を持つ配位子として広く活用されている環状アルキルアミノカルベン(CAAC)のケイ素版の化合物(CAASi)であり、今後新たな触媒配位子や機能性塩基としての応用が期待されます。

用語解説
注1 米国の物理化学者Gilbert N. Lewisによって提唱された酸と塩基の定義。Lewis塩基は電子対を与えるもの、Lewis酸電子対を受けとるものと定義される。プロトンの授受により定義される酸と塩基であるBrønsted酸とBrønsted塩基はそれぞれLewis酸とLewis塩基に含まれる。

反応途中の分子を操る ~ 高い安定性と反応性を合わせ持つ二価ケイ素化合物の合成

(論文情報)著者・雑誌名・掲載ページ・DOI・論文URL
A Two-Coordinate Cyclic (Alkyl)(amino)silylene: Balancing Thermal Stability and Reactivity
Tomoyuki Kosai, Shintaro Ishida, Takeaki Iwamoto
Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 50, 15554-15558
DOI: 10.1002/anie.201608736
URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201608736/abstract

(掲載日:2017年3月6日)

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