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分析化学研究室

RNA二重鎖を可視化する新技術を開発!〜蛍光性ペプチド核酸プローブ〜

 生命現象を分子レベルで解明することは21世紀の化学が担うべき魅力的な研究課題です。本研究では、リボ核酸(RNA)の二重鎖構造に結合する蛍光分子(プローブ)を新たに開発し、RNA二重鎖の塩基配列を可視化することのできる技術を世界で初めて開発しました。この技術は、様々な生命現象、疾患、ウィルス感染と関与するRNA高次構造の機能を解析するための革新的な技術基盤になるものと期待できます。

 本研究で開発したプローブ(tFITプローブ:図参照)は、ペプチド核酸(PNA)注1)をベースとした骨格に、蛍光色素(チアゾールオレンジ:TO)を疑似塩基として導入したもので、フーグスティーン塩基対を介してRNA二重鎖と塩基配列選択的に結合し、三重鎖構造注2)を形成すると色素の蛍光強度が著しく増大します。RNAは細胞内で複雑な構造を形成することで、代謝物やタンパク質と反応し、多彩な機能を発現することが知られています。そのため、その構造の基礎となるRNA二重鎖を精密に解析する技術は生命現象や疾患を解明するために必要不可欠なものです。これまでの分析手法はRNA一本鎖構造に対してのみ有効だったのに対し、本研究で開発したプローブを用いることにより、RNA二重鎖の構造と配列情報を解析することが可能となりました。

 本プローブは、標的となるRNA二重鎖の塩基配列情報に応じて設計できるため、多様なRNAを標的とすることが可能で、今後、全く新しいRNA解析技術となることが期待できます。

注1) ペプチド核酸
天然核酸(DNAやRNA)の糖-リン酸骨格をアミド結合に置き換えた人工核酸の一種。

注2) 三重鎖
核酸二重鎖(ここではRNA)へさらに核酸一本鎖(ここではPNA)が巻き付いて形成する超分子構造。PNAのチミン(T)、シトシン(C)塩基が、RNA二重鎖内のA-U, G-C塩基対とそれぞれ水素結合をすることで形成する。この時形成される塩基対は、ワトソン・クリック塩基対とは水素結合パターンが異なるため、フーグスティーン塩基対と呼ばれ区別されます。

RNA二重鎖を可視化する新技術を開発!〜蛍光性ペプチド核酸プローブ〜

図 (A) 本研究で開発した蛍光分子(tFITプローブ)の構造。(B) 三重鎖構造の分子モデリング:プローブのPNA部分をオレンジ、TO部分を緑、RNAを青と灰色でそれぞれ示した。(C) フーグスティーン塩基対:チミンとプロトン化したシトシンが、それぞれ、アデニンとグアニンに結合する。(D) tFITプローブの蛍光応答:非結合時には、ほぼ無蛍光であるのに対して、RNA二重鎖と結合すると黄色蛍光を発する。

著者・雑誌名・掲載ページ・DOI
Takaya Sato, Yusuke Sato, and Seiichi Nishizawa, J. Am. Chem. Soc., 2016, 138, 9397-9400.
DOI: 10.1021/jacs.6b05554

(掲載日:2016年12月21日)

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  • 東北大学
  • 東北大学大学院理学研究科・理学部
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